ミッドサマーの感想・ホルガ村で祝祭した

どえらい映画だった。豪い(えらい)映画。右脳ばかり使う映画だったので、なにか文章を書くか、誰かに話すかしないと、脳のバランスが取れない。迷ってる人向けにネタバレ無しの感想と、観た人向けの感想で分けてある。祝祭ハジマル!

ミッドサマー概要

  • タイトル:『ミッドサマー(Midsommar)』
  • 監督/脚本:アリ・アスター
  • 製作会社:A24
  • 公式HP:https://www.phantom-film.com/midsommar/

妹が両親と心中して孤独になったダニーが、旅行先にホルガ村でゆ~~~~っくりと駄目になっていく。一人の女が駄目になる様を、2時間半かけてゆっくりやってくれる。

公式サイトに観た後に「完全解説」のページがあるので、考察の答えはすべてここにある。全部ここに書いてあった。これをよんだ上で、もう一度ディレクターズカット版を観に行かせる福利厚生のなってる映画。でも2回目はもう良いな……時間をおいて観よう。

背景の森が某顔になってるのは気付かなかった。カットが不自然だなとは思った。

このページのパスワードでわかるけど、「観るではなく”見る映画”」が正解なんだなぁ!だよなぁ!!!(やけくそ)

内容のネタバレ無しの感想

気になってて「どうしようかな……」って迷ってる人向けの文。

右脳ばかり使う映画。映像美や音楽が印象的だし、上から全体を映す映像が多くて空間的、直感で「不気味さ」を感じる。

まっっっっっっったく、左脳を使わなかった。何一つ論理的じゃない。人物同士の会話の掛け合いは極端に少なく、最小限のやり取りしか無い。上演時間に対してこの映画の台本薄そう。

会話が成り立ってないのは、オーガニックな葉っぱ(濁した表現)のせい。初っ端っからキメるので、全員が言語中枢やられた状態の会話をする。登場人物も左脳を使ってないぞ。欲望に忠実。

グロさは状況を映してくるので、苦手な人は覚悟が必要。映像のグロさより「こんな殺し方ある?よく思いつくな!」な感想のほうが強く斬新。芸術点が高い。

どちらかと言うと、映像より音。音が怖い。グロさは目を閉じれば逃れられるけど、音の演出からは逃れられない。

序盤に音を一切消すシーンがあるので、絶対に目を開けて映像を確認しなくてはいけないところがある。そこの演出でだめな人は、途中退室したほうがいい。ここ演出として最高に趣味が悪いけど、そういうところ好き。

音を消す演出は、村人が手話を使うところ。お遊戯会のきらきら星みたいな動きって、拍手の手話だよね? 手話は世界共通ではないので、ホルガ村特有のハンドサインなのかもしれない。

音がないけど存在する演出なのか、多分「ここから聴覚じゃなくて、瞬きしないで観てね!」って観客を誘導してく。目を凝らさないと気付かない箇所が、そこからたくさん出てきたので見るの大変。

生活音も全ての音程が、半音下がった感じ。開始5分ぐらいから重苦しい。ドアの開閉、電話の着信音、車のエンジン音も耳慣れない。気分が重くなったのは演出なのかな? 下がってるわけじゃないのに、下がってるように聞こえるだけ?

視覚がキラキラ鮮やかで楽しそうなのに、聴覚は不穏で混乱する。動くはずじゃない花も、生き物のように動いてる(花冠のところ)ので映像が無秩序。

目を開けて見る夢っぽい。いっそ夢オチでも良かった(そうであってほしい)

ホルガ村人も右脳の発達がすごいので、共感が高い。「それって違くない?」「おかしいよ」とか正論をぶちかまさない。常に会話が「Yes,because」か「Me too」から始まる。正確にはあの村の主語はWe。

もう泣いてる人を見たら、「わかる(わかってない)、私たちも悲しい(かなしいふり)」で泣いてくる。学生の放課後会話のようなペラい共感が満載。ツイッターの囲いみたいなヨシヨシが待ってる。演技がかったコント感ある。

映像と音が向き不向きあるので、語彙力高い小説家のノベライズがあったらみんなに薦めると思う。文章というより映像を見てほしくて映画作ってそうだからない。映画はオススメ!ってやりづらい。

それか、岡崎京子にコミカライズしてほしい。ダニーとか岡崎漫画に出てくる主人公の雰囲気そのまま。

</ネタバレ無しここまで>

ネタバレ有りの感想

ここからは観た人向け。私は結構頑張って”観た”んですよ。鑑賞をした。もっと映像だけを”見て”くれば感想も違った。

ダニー、クリスチャン、マーク、ジョシュ、ペレの誰も好きになれなかったので、冷静に観れた。主要人物全員、好きじゃない。

よかった、いい人(?)がいなくて。

いい人が無残に殺されて犠牲になるやつが無理。みんな適度にダメダメなので、死んでいくさまが「まぁ、死ねてよかったな」って感想。

努力が報われない胸糞さはなく、ラストは晴やか。しょうがないよな。


やっちゃ駄目だよって言ってるのにそれやっちゃったり、論文パク仕様としたり、文化風習に理解なかったり、悲しい死に方をしても「まぁ、そうなるな」な、因果応報がすごい。あの中で論文パクが一番ダメ。

そこまでしなくとも……感はあるけど、1回間違えると即死判定のホルガ村。

ダニーは最後居場所が出てよかったね。でも、ふと我が出てしまってルール破っていつか生贄になるんだろうなって気がする。ペレと子供作って用済みになって、何かの際に生贄で死んでしまうのでもいい。

前半ずっと「私帰りたい」「私は一人」「私はいい」が、メイクイーンあたりで主語が「私達」になった。君も立派な村人になれて良かったなぁ……。ホルガ村人は、主語が常に「We」だからね。ラテン語で書かれた賛美歌みたいに主語が「私達」

生贄選びも浮気した彼氏への個人的な制裁ではなく、ホルガ村全体の創意として生贄選んで、個が消えてた。ラストは一人だけ笑ってたので、その笑顔は個人的なもの。

最終的に孕んだ後、メイクイーンも燃やされるんだろな。

処方された薬を他人に譲ってもらうの駄目では?(薬事法が日本と違う?)

「のど飴頂戴」みたいなノリで、当たり前のように眠剤を譲ってる。普段飲んでる薬と飲み合わせ平気? オーガニックな葉っぱを軽率にキめてる映画に、そんなこと言うのは野暮。

ダニー妹がああなった理由は出てきたっけ?なんで両親巻き込んで心中したんだろって思ったけど、父親に近親相姦でもされてたんかなぁ………(悪い方向に考える)姉妹揃って不安定なのは、家庭に問題があったのでは?

クリスチャンはダニーの何が好きなの?なんとなく付き合ってるだけ? あそこで「彼女がいるので無理です」って断れたら、また違った死に方だったのかもしれないね(死ぬことは確定)

論文パクしようとする件がクズ。アウト。ダニーに対する態度はまぁよくいる優柔不断な人物で済ますけど、パクろうとしたやり取りは嫌いに振り切れる。論文はテーマ決めが6割だぞ。テーマと主題を決める過程が重要で難しいのに、テーマ横取りはクズすぎ。

ジョシュは論文のための好奇心で殺される。ミステリーでよくいる秘密を知りすぎるジャーナリスト枠。これがホラー映画じゃなくて冒険奇譚なら、ジョシュの知識と機転でピンチを切り抜ける役柄だっただろう。

足の肌の色で「あいつ死んだな」ってわかる。あの肌の色の人物は、ジョシュしか居ないもんな……。肌の色の違いをそういうふうにするのは趣味悪いよ、監督!

マークはもう、葬式でおとなしくできない小学生みたいだったから……。お前、本当に大学生か?躾なってないぞ、怒られっぞ?と思ってたら、お仕置きされてた。

サイモンとコニーはなにかしたかな……?そこはよくわからなかった(数合わせ?)サイモンはホルガ村に共感できなかった(=ファミリーになれない)からなんだろう。

コニーはダニーと同じようにメイクイーン候補+外部からの孕用で連れてこられたけど、ダニーの適正が高かったから?

ペレは……悪い男だな。最初っから種馬+生贄目的で男3人を連れてきてる。村の近親を避けるために、よそのDNAが必要でそのための男性。旅人信仰がある村のマレビト信仰っぽい。ハーメルンの笛吹っていうのに納得した。

5月女王+生贄+マヤの儀式、全員ベストなデッキだった。ペレの両親も、儀式で生贄にされてるんだなってわかるのも怖い。

マヤ様はおっぱいのことしか覚えてない。「セッしないとでられない小屋、応援上映」は、絵面が面白くて笑いそうだけど耐えた。応援も脱ぐ必要あるかな?ここギャグ。モザイク具合が笑ってしまうので、R18のディレクターズカットなら平然と観れたのかもしれない。

祭りを性開放の行事なのはどの世界にもある。祭りのときに身ごもった子はきっと讃えられちゃうだろうし、子もその母も地位上がりそう。

「90年に一度」なのは今回みたいな大掛かりな祭り(9人+クマ犠牲)で、小規模(1~2人)のは数年後ごとにやってそう。72歳で他界確定なのに、手順がスムーズなのは頻繁にやってなきゃあんなふうに儀式がすんなりいかない。

それに、5月女王の写真の数が合わない。3年に一度ぐらいよそから女性連れてきてやってそう。「私のお母さん/おばあちゃんもメイクイーンだったんだよ」的な事を言う子供が居ないので、きっと歴代メイクイーン処分されてる。

「90年に一度」で、誰も前回のミッドサマーを覚えてない(立ち会ってない)なら、大幅に自己解釈でねじまげて開催することも可能。毎回趣向違いそう。


伏線というか、絵画や映像で「今後こんな展開になりますよ」って、予め教えてくれてる。予想したとおりになる。伏線ではなく暗示。直喩的な暗示。

ルーン文字はわからないし詳しくないんで、わかる人ならもっとわかったんだろう。上からの映像になった場合、みんなルーンの形なのかな?序盤の歩いて道を行くところも「r」っぽかったし、食事シーンの机の並びもそれ。

映像演出のスキルが有る人はご存知だろうけど、上からの映像(俯瞰)は悲しみ/弱々しさ/不安。会話シーンでも強者はアオリ、弱者は俯瞰にするアレ。

論理的に考えたらおかしいところはいっぱいあるけど、右脳で見る映画なのでそこは考えない。

ホルガ村の資金源はどこから?(外部に大学にいかせるだけの仕送りは?)産業なに?オーガニックな葉っぱが産業ってわけ?

ミートパイのミートってなんの肉?(家畜かってる?居たっけ?)白夜がある地域なのに遮光カーテンではないとか……。道路にあった移民反対の幕は何?とか。

一番気になるのは「9日間の始まり」って言ってたのに、作中で9日もあった? 白夜だから日のカウントが曖昧だけど、9日はたってないよね?

5月女王のクマの儀式がメインイベントじゃなくて、さらにいくつかあるというところ。そっか、まだまだおもしろイベントは続くんだな……。ディレクターズカット版なら9日間ちゃんとやってる?

オマージュ的なの

深沢七郎の小説『楢山節考』を読んだことがあると、序盤のストーリーラインがわかりやすい。70歳位で姥捨て+「(死ぬ日に)雪降が降るなんて運がいいね」あたりの、綺麗に死ねてよかったね的な死生観。

5月女王になったダニーが最後クリスチャンを生贄に選ぶのは、F.R.ストックトンの『女か虎か?』 他の女に取られるぐらいなら「指差すのは虎だろ?」なアンサー。

監督、世界の民俗学に詳しい。映画をすっごい楽しそうに作ってそう。スポンサーのしがらみとか関係なしに、予算目いっぱいまでこだわり抜いてそう。

所感

「今年のエイプリルフールのパロ元になりそうだから見とこ!」って軽い感じで誘われた。一人じゃ観なかった。面白かったけど体力が減る。ベティ・ブルーを見た後の疲労感に似てる。

観た後にスウェーデンに行きたいと思えない。あんなにきれいな映像なのに!

観終わった後の疲労や不安が暫く続く。自動で始まる空気清浄の音に「ガスか!? もれてんのか?」ってビクビクし、ポップアップされたBluetoothのロゴに「何のルーンだ!」って怯えた。しばらくカチッっていう機械音が怖かった。観終わってから2日ぐらい怖い。

監督の「自分の失恋体験から思いついた」っていうインタビューが、一番の嘔吐ポイントだった。何が創作に生きるかわからないけど、このインタビュー読んだ元カノの気持ち……。

オリンピックの聖火の映像、ミッドサマー味を感じてしまう。天気が良くて女の子がにこやかになにかしてるビジュアルは危険。


「向こうで映画見るけどあなたもどう?」元カルト信者の私が『ミッドサマー』に覚えた既視感

めちゃくちゃ面白かったミッドサマーの感想、みんな読んで、やっぱり〇〇は世界を救う。


ホルガ村のHPもあって、インターネット老人会には懐かしの出来。

httpsじゃないところも完璧。orgなところもわかってる。非営利組織の宗教団体は概ねorgドメイン。こういう細かい演出が完璧。あの村電波はきてるけど、WIFIはきてなさそう。

公式サイトでシナリオが公開されていて、ほぼ答え書いてある。英文が読めるなら、そこらへんの考察を読み漁るより早い気がする(これが読める人は、すでに北米公開版を見てるのかもしれないけど)

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